STEP2 組織体制を整備しよう

STEP1で社内意識を変えつつ、STEP2からは具体的なテレワーク導入に向けた社内体制の整備を行います。STEP2は大きく分けて、組織体制を明確にする、権限を明確にする、ワークフローシステムを導入する、という3つの軸で考えていきます。

「組織体制を明確にする」については、「明確になっている」と思う方も多いかもしれません。しかし、株主総会、取締役会といった会議体がきちんと運用され、監査役も含めて機能している例は少ないというのが実態ではないでしょうか?また、誰がどのような役割で、どの組織に属しているかについても、現場に行けば行くほど曖昧になっているケースも見られます。

また、権限を明確にするについては、明確に誰が何を判断してよいかが社内規定として整備され、社内の認識も統一され、各自で判断しながら迅速に業務執行できているという企業は、中小中堅企業においては実は少ないのではないでしょうか。多くの場合は、ほとんどを社長が口頭で決済していたり、その場にいる管理職の、なんとなくの判断で進んでいたりという現場も見受けられます。

テレワークで最も必要になるのは、IT機器やシステムではなく、それぞれが自分で考え,判断しながら業務を推進していくという自律性です。自律的に物事を進めるためには、会社側は行動規範と判断基準を従業員に示さなくてはなりません。行動規範はSTEP1の社内意識を変える際につくっていくものですが、このSTEP2では判断基準について定めていくこととなります。

(1)組織体制を明確にする

図1に、一般的な法人における組織体制を例示します。

ここで最初にお伝えしたいことは、株主総会、取締役会がきちんと機能しているか、という点と、監査役がきちんと機能しているか、という点です。

多くの中小中堅企業は経営者一族が株式の大半を保有し、安定的な経営が行えるような株主構成となっています。それ自体は持続的な経営のために必要であり、大株主でもある経営者は安定的な経営権の維持のため、過去に分散してしまった株式を集約したり、次世代に円滑に株式が引き継がれるように計画したりします。

しかし安定的な支配株主の存在と、会社経営を適切に運営するという事はまったくの別問題です。会社は図1のような階層構造の中で運営され、業務執行が適切に行われているか、経営状況は良好か、事業計画は順調に進捗しているか、法令違反は発生していないか、等について随時チェックできる仕組みが必要です。特に第三者である金融機関からの借り入れや、外部投資家から資本注入を受けている場合は、外部に対する責任説明が発生します。また、それだけでなく、現在はお客様のみならず、外部の仕入先や協業パートナーといった取引先から、ひとりひとりの従業員をも含めた、全ステークホルダーに対する積極的な情報開示が会社の信頼を得るための一つの方法になっています。

図1:組織体制を明確にする(一般的な法人組織の例)

現代社会においてますます重要になってきている「信用」をどのように形成するかという面において、適正な会社運営の実現と情報開示という方法は、最も取り組みやすく、コストパフォーマンスの良い方法の一つです。なぜならば、会社運営を適切に行うために必要となる仕組みの多くは会社法に定められており、多くの「雛形」が提供されているからです。特に株主総会や取締役会で決めなければならないこと、監査役の職務範囲は「会社法」によって定められています。この会社法を雛形に組織をつくっていけば、適正な社内組織体制が自然と形成できます。

これまで、会社によってばらつきはあるでしょうが、会社法は多くの中小企業経営者にとってあまりなじみのあるものではないという現実があります。しかし、今後は適正な運営体制の構築、コンプライアンスの実現、内部統制システムの構築といった、これまでどちらかというと大企業の世界と思われていたものが、テレワーク以前の課題として、急速に中小中堅企業の領域でも取り組むべき課題となってきています。

弁護士や司法書士を中心とした会社法スペシャリストの存在は、今後ますます重要なものになっていきますし、アドバイザーであるこれら士業が積極的に提案をしていくことが、これら士業の重要な役割になっていきます。

さて、それではなぜ組織体制が明確になっていないといけないのでしょうか?それは一言でいえば組織体制が明確になっていないと、責任範疇が曖昧となってしまうからです。村社会的なコンセンサス型の合意形成で物事を進めていては、誰がどういった責任でどういったチャレンジを行い、どういった結果となったかのモニタリングができません。失敗を咎めるということではもちろんなく、責任範疇を明確にしなければ、仮説と検証が成り立ちません。今後既存事業の深堀と同時に、時代の変化に合わせた新規分野への探索が求められる中で、失敗はとても得難い、貴重な財産となります。仮説と検証をきちんと行うためにも、責任範疇は明確にすることがますます重要となります。

また、最終的には社長による融資の「個人保証」に集約されるように、中小中堅企業はすべての責任を、文字通り社長が人生を賭けて負うという現実は今後も劇的には変わらないと思えます。しかし、社長が全責任を負っているからといって、現在の経営環境の変化は、すべてを社長が考え、判断していられるようなスピード感ではありません。事業計画を定め、それに係る予算を定めたら、あとは誰がどの責任で、何を担うかを決め、迅速に事業計画の達成に向けてひとりひとりが考え、判断して、自律的に動いていくようなスピード感が求められています。次に述べる権限を明確にするための前段階として、誰がどの組織で、どのようなミッションで働くかということを明確にする必要があるのです。組織の明確化は、一人一人のミッションの明確化と、権限移譲の準備に他なりません。

これは、テレワークの実現に臨む前に取り組まなければならない課題の一つです。テレワークは日々対面で会うことで成り立っていた村社会的な合意形成がやりづらくなるという側面があります。ミッションと権限を明確にするという、本来取り組まなくてはならなかった課題への対応が、新型コロナウイルスに突き付けられたテレワークへのシフトでより明確になったにすぎません。

参考資料

テレワークではじめる働き方改革(厚生労働省)

デジタルニッポン2020 ~コロナ時代のデジタル田園都市国家構想(自由民主党政務調査会)

【政策解説動画】第0回デジタル・ニッポン2020の概要

(2)権限を明確にする

組織体制が明確になったら、ここに誰がどういった権限で、何を判断してよいかをプロットしていきます。図2に示すように、各階層で決議事項、決済権限を定めていきます。

そして図3、図4に示すように、株主総会、取締役会は会社法の世界で最低限必要な決議事項が決められています。これら法定の決議事項はそれぞれの会議体で決議していくしかなく、招集や議決方法についても会社法で定められています。一方、会社法で定められているもの以外を株主総会や取締役会で決議してはいけないということはありません。特に取締役会は、会社の重要なことを決議する、重要な会議体です。ここで詳述はしませんが、社外取締役といった、外部の知見を取り込み、業務執行の重要な判断、モニタリングを行う会議体に磨き上げていくことが必要です。順にみていきます。

図2:権限を明確にする

まず、株主総会は図3に示す通り、会社法で定められたプロセスを適切に運用するための会議体と言えます。特に会社の経営に直接影響力を発揮する株式といったものに係る決議が行われることもあり、今後手続き面でも重要な会議体となります。手続きを失念したために、会社経営に係る重要な判断が「無効」となることもあり得ます。株式に関する紛争裁判は、いったん紛争となると経営が停滞しかねない重要な問題になりえます。これらの判断を決議する株主総会の適切な運営は、テレワークとは関係なく重要性が高まっています。また、株主総会の開催は遠隔でも可能かという問題がありますが、こちらも議論が急速に進んでいます。関連法規が少ない分、中小中堅企業は大企業よりも早く対応できる領域です。

参考資料

「全員オンライン参加」でも株主総会は可能、コロナ対策で経産省が見解(日経XTECH記事)

図3:株主総会決議事項

次に、取締役会決議事項について、図4に例示します。

先に述べた通り、取締役会は会社法で定められた決議事項以外にも、会社の重要なことを決議する、まさに経営判断を行うための重要な会議体です。現場から個別に社長に相談が上がり、あいまいな合議で物事を決めていくのではなく、やはり会社経営に係る重要な決定事項は、業務を管轄する担当の取締役が責任をもって取締役会に付議し、これを経営陣で議論して他組織の協力含めて、役割と責任を明確に決めていくことが求められます。また、決めるだけでなく、取締役会で決議した事項が、その後どのように進捗していくのかをモニタリングすることも、取締役会の重要な機能です。

もう一つ、最近中小中堅企業においても重要になってきたと感じるのは、取締役会を、社外取締役といった、外部の知見を取り込み、業務執行の重要な判断、決定を行う会議体に磨き上げていくということです。経営上の「最適な答え」が判断しづらい社会になってしまった分、社外の知見も含めた判断を迅速に行うための社外取締役の活用と、その活用の場としての取締役会の価値と重要性は高まっています。

このように取締役会は業務の執行に関する最高意思決定機関であり、これを適切に運営し、会社判断の迅速化と適宜の修正を行っていける会議体に練り上げることが必要ですが、テレワークの文脈は、取締役会の運営に明確にプラスに働きます。取締役、監査役、そして社外取締役といった重責を担うメンバーが、随時集まって会議をひらくことは必ずしも合理的ではありません。特にテレワークの一般化は、外部の知見を積極的に活用しようと思ったときに、首都圏などの遠隔地で暮らす専門家の協力を仰ぎやすくしたといえます。そして、取締役会の運営にかかわるメンバーは全員経営層ということもあり、取締役会はすぐにでもテレワークに移行できる領域の一つです。テレワークの実現を考えたとき、責任と権限を与えられている経営陣、幹部こそテレワークを実践してみるべきです。そこで自社にあったテレワークの形や、テレワーク導入の課題が見えてくるかもしれません。繰り返しになりますが、テレワークの実現というチャレンジの価値は、テレワークそのものに価値があるのではなく、テレワークの実現を通して会社そのものをトランスフォームしていくことにあります。取締役会の役割の強化と判断方法のトランスフォームに消極的な取締役メンバーは、変化の時代において会社のトランスフォームを妨げかねません。そういったメンバーには、早々に経営の現場から退いてもらうという、経営者の覚悟も必要です。そして、もしそれが経営者自身であった場合、経営者自身の退任も視野に入れるべきです。取締役会は、本来経営者自身を律するために存在するという面があることも、改めて考えていただければと思います。

参考記事

取締役会の議事録承認、クラウドで電子署名 法務省が容認(日本経済新聞)

参考文献

コロナショック・サバイバル-日本経済復興計画 冨山和彦 文芸春秋
コーポレート・トランスフォーメーション-日本の会社を作りかえる 富山和彦 文芸春秋

図4:取締役会決議事項例

そしていよいよ一般社員も含めてテレワークを行うのに必須となる、各階層における決裁権限について図5に例示します。何を各自が判断してよいかを定義することは、何を判断してはいけないかを定義することと同義です。

例えば「お金」や「人事」に関することは細かく決めていく必要がある一方で、具体的な業務執行、たとえば営業架電リストの作成と架電実行といった、日々の試行錯誤が求められる業務は決済ではなく、従来の報連相、もっといえば雑な相談である「雑相」の世界でどんどんトライアンドエラーを繰り返した方が成果はあがるかもしれません。ここでは、「決済する事」を決めるとともに、「決済しない事」を決めることを意識する必要があります。

ここにSTEP1との関連性が出てきますが、「決済しない事」の中にこそ、その会社らしさが出たりします。すべてを決めてしまうことは「物事を考えない依存型の従業員」を量産するだけの結果となります。従業員ひとりひとりが、リモートでも自分のミッションを明確にとらえ、自分が判断してよい領分を意識しながら、ミッション遂行に向けて自律的に行動できるようになることが、STEP1およびSTEP2を通した目的となります。

図5:決済権限を明確にする

一方で、前述したように「お金」や「人事」に関することは細かく決めていく必要がありますが、特に「お金」に関することは細かく決める必要があります。たとえば、お客様への見積書や請求書が適切に発行されているか?つまり、ほかのお客様に説明のつかないような、特定の顧客に対する不当な値引きがないかというチェック機能は、仕組みとして構築する必要があります。これを実現するためには、例えば定価50万円以上の見積書については、お客様提示前に営業部長が承認する、20%を超える値引きについては管掌取締役の承認を要する、などの権限設計が必要となります。また、決裁権限の説明で最もわかりやすいのは経費精算の決済です。現場担当者が使用する出張旅費等の経費についても、金額に応じて出張申請が決済されることで、出張の必要性がチェックできることになります。

「お金」に関する決済権限を明確にして常にチェックできる仕組みを作ることは、会社側が管理のために必要であるという側面と、簡単に不正ができない仕組みをつくることで従業員を不正の誘惑から守る、という側面の両面があります。どちらかというと、不正の防止の仕組みを作り上げる事は会社側の管理コストを下げることにつながり、やらない理由が見当たりません。特にテレワークでは、より従業員を信頼して、自律的に働いてもらわなくてはなりません。仕組みとして不正が入りづらい仕組みをつくれば、そもそも疑うコスト(チェックコスト)が最小化されるため、事務コストの低減につながります。そしてお金の流れが決済の流れと一致していくことで、会計帳簿の作成コストの低減にもつながっていきます。

また、「人事」面では、昇格や降格を、明確な判断基準のもと、どの会議体で決議するかなどを決めることで評価の不透明性をできる限り排除することにつながります。これらを明確にして運用していくことは、健全な従業員の競争意識を持続的に刺激することにつながります。この領域は会社経営上、もっとも運用が難しい領域の一つですが、これらの実現を支援する外部支援者も増えています。特に今後は社会保険労務士が、申請業務や補助金申請業務だけでなく、こういった人事面の制度構築の提案、支援を積極的に行ってくことが期待されます。

また、こういった評価面だけでなく、日常的な残業申請、有給申請等の労務申請も決裁権限を明確にしていく必要があります。これはSTEP3の就業規則の準備と合わせて考えることで、コンプライアンスを意識した、経営側も働く側も納得感があり、よりストレスの少ない、新しい働き方を考えていくことができるポジティブな可能性に満ちた領域です。大企業に比べて、中小中堅企業はより本質的な、新しい働き方、その会社ならではの仕組みづくりに取り組みやすいはずです。テレワーク導入を好機ととらえ、どこにもない会社作りに中小中堅企業が挑戦することが、長期的な企業競争力の確保につながっていくことは間違いありません。

(3)ワークフローシステムを導入する。

STEP2の締めくくりとして、ITツールの話をしておきたいと思います。組織と権限が明確になったとしても、これを紙の稟議書等で決済を回しているとしたら、なんの生産性向上にもつながりません。もちろんテレワークも実現しません。これら決裁を実行するための「ワークフローシステム」の導入は、必ず必要となります。すでに組織と権限が明確になっていて、運用もきちんとできている、中小中堅企業ももちろんあります。そのようなきちんとした運営ができている企業でも、「紙」の稟議書にポチポチと印鑑を押して回すという会社が多いように感じます。テレワークの実現においては、もちろん紙で稟議書を回すことはできなくなるので、稟議もデジタル化する必要があります。そして、稟議のデジタル化を実現するツールとして、ワークフローシステムがあります。

稟議のデジタル化の際によく出る議論が、「メールでやる」や「Slackのようなチャットツールでやる」といった、コミュニケーションツールを活用する方法です。人数が少なければもちろんそれでも良いと思いますが、これらに共通して言えることは、決裁権限を全員が理解し、人間系で各自が判断しながら稟議を上げていく必要がある、ということです。つまり、コミュニケーションツールで稟議を上げる場合、それが適正なルールに従って決済が完了しているかということを、チェックする業務が必要になります。また、この決済が完了しているか否かといった、決済毎のステータスチェックが曖昧となってしまいます。

これらの課題を解決するために生まれたものが「ワークフローシステム」です。中小中堅企業が使えるもので、一般的なものは、サイボウズのKintoneといった、グループウェアに機能として組み込まれているものや、freeeのように会計、人事システムの中に組み込まれているものがあります。また、boardのように請求管理システムに組み込まれているものもあります。面白いところで言うと、Amazon BusinessやASKULにもワークフローシステムが組み込まれています。必要に応じてこれらを組み合わせて自社の決裁権限をワークフローシステム上に表現していくことが必要となります。

ワークフローシステムを使う上で一番のメリットは、ロジックをシステムに埋め込むことができることです。例えば、5万円以上10万円未満の物品購入が部長決済だとして、承認フローは「担当者」→「リーダー」→「部長」もしくは「担当者・リーダー」→「部長」となります。これらをシステム上、あらかじめセットすることができるので、決裁稟議を上げる人が、いちいち「この範囲の決裁権限は部長だから、部長宛てに稟議をあげよう」ということを考える必要がありませんし、部長側も承認依頼が来たものを判断すればよいので、それが自分の権限で決済してよいかどうかについては考える必要はなく、稟議で申請された中身そのものについてだけ、判断すればよいということになります。

また、多くのワークフローシステムは決済後に「確認」のフローを回すことができます。先ほどの例でいえば、「担当者・リーダー」→「部長(決済)」→「経理(確認)」という流れを作ることができます。このように、お金に関する決済の情報が必ず経理に回ることで、経理は会計のための資料を自動的に収集できることになります。当然、ワークフローには見積書や請求書といった外部から提供されたものがスキャンデータとして添付されます。先に述べた、会計帳簿の作成コストが下がるということは、こういったことから言う事ができます。

さて、ここでお気づきのように、ワークフロー上で決済が回るとしたら、経理メンバーは会社にいることを必要としません。ワークフロー上で回ってきた決済内容を見ながら、自宅で経理作業を行うことができます。銀行振込等々も自宅からできる時代です。振込セットと振込実行を別々の人が行うなどのセキュリティ面の設計は必須となりますが、経理は最もテレワークがやりやすい領域の一つです。経理のテレワークを阻む一番の阻害要因は、「現金決済」です。現金の取り扱いは、管理コストが割に合いません。現金実査を常に行わなければなりませんし、現金を出納する、ということは、その取引に係る「取引データ」が存在しません。当然会計システムには手入力を要することとなります。このように、テレワークの実現を阻むものは、実はコストの高い業務プロセスであるということが言えるかもしれません。すべてがすべてではないと思いますが、テレワークの実現と、業務改善の実現はセットで考えると、より効果の高いプロジェクトになるのではないかと思います。

また、ワークフローシステムの導入においてもう一つ重要な事は、証憑である請求書等の「紙」である資料と、ワークフローを回すためにスキャンした「データ」が分離することです。事務をやっていない方はピンとこないかもしれませんが、実は証憑類である請求書等を紙の稟議で社内に回す場合、どこかで稟議書そのものが「無くなる」ということがしばしば起こります。多くは机の上の資料の中に紛れてしまったりするのですが、誰がどんな稟議をどこまで回しているかは可視化されていないため、無くなった稟議は、存在しないに等しい状況となります。請求書の場合、取引先から「振り込まれていない」などの問い合わせを受けることで請求書の紛失が明らかになり、会社としての信頼を損なう結果となってしまいます。

ワークフローシステムの導入にあたり、やっかいな郵送物である「紙」の移動を極限まで減らすことが資料紛失のリスクを減らします。例えば、郵送された請求書はまず経理部ですべてスキャンし、そのデータをワークフローシステムに流すことで決済を完了させ、請求書の原本は経理部から一歩も出ていかず、そのまま決算後に倉庫に移送する、といった証憑類の紛失リスクを最小限にすることができるようになります。あまり楽しい話ではないですが、経理スタッフの少なくない時間が、実は資料を探す時間に充てられている、という現場もよく目にします。ワークフローシステムの導入は、こういった紙の証憑類の流れを設計することと合わせて考えると、非常に業務がスムーズになったと実感できるはずです。ぜひトライしていただけたらと思います。

ここで非常に重要なニュースがあります。2020/7/30付け朝刊で日本経済新聞に掲載されたニュースで、「請求書 完全電子化へ 仕様統一で政府・50社協議、会計・税の作業負担減」というニュースです。(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62068520Z20C20A7MM8000/

このニュースは政府と民間が一緒になって、請求書のデータ仕様を統一し、2023年までに完全デジタル化するというものです。2023年10月からはインボイス制度が始まり、特に中小企業の事務負担が高まる見通しで、消費税率10%と軽減税率8%の商品を区別し、請求書に税額や売上高を記さないと税額控除が受けられなくなります。そういった複雑な仕組みを事務コストの増大なく運用するには、請求書そのもののデジタル化を進めるしかありません。そのために請求書データの入力・参照を各企業がクラウド上で進められるシステムを開発し、取引先への入金や領収書作成を自動的に進める機能も加えるということです。22年秋から順次サービスを始めるということで、記事によると、完全に中小中堅企業もターゲットとした施策になっていくようです。

このように、業務のデジタル化はテレワークの実現に必要なものですが、同時にテレワーク以前に会社が対応しなければならない、時代の変化そのものであるということも言えます。労働生産性の低さが日本経済の一つの特徴とまで言われる現在ですが、政府の危機感は相当なものだと感じます。先に紹介したデジタルニッポン2020の資料を見れば分かる通り、日本社会は急速にデジタル化に向かっていくと考えられます。この波をとらえ、コーポレート・トランスフォーメーションを実現していくことは、迅速に意思決定ができる中小中堅企業にとって実は大きなチャンスと捉えることができます。業務を徹底的にデジタル化し、既存事業の利益体質を磨き上げるとともに、既存事業で獲得できる利益を新たな事業領域の探索に使うという両面を社内に持つことが、この大きな機会を活かす重要なポイントとなります。テレワークの導入は、デジタル化を進め、業務改善と新事業の探索を支えるための基礎となる仕組みだと捉えることができるのです。

参考文献

両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く
チャールズ・A・オライリー(著)、マイケル・L・タッシュマン(著)
入山章栄(翻訳・解説)、富山和彦(解説)