対談コラム

【対談コラム】自動車業界に到来するDXの波に備え、製造業こそテレワーク環境の整備を


2020年1月22日、日本生産性本部は新型コロナウイルス対策で再発令された緊急事態宣言下のテレワーク実施率が、全国で約22.0%だったとする調査結果を発表しました(第4回「働く人の意識調査」より)。規模別にみると、100人未満の企業ではテレワーク実施率がとくに低いとの調査結果(パーソル総合研究所)も報告されており、中小企業でのテレワーク実施率はまだ低いのが現状です。

工場でのライン生産が中心となる製造業でのテレワーク推進は、とくに難しいとの意見も聞かれます。しかしながら、ロボット・IoTによる生産の自動化やデジタルによる製造業務全体の変革(DX)が求められる中、本当にテレワークは「無理な取り組み」なのでしょうか?

株式会社ソミックマネージメントホールディングスとそのグループ会社でボールジョイント(軸受)・自動車シート用ダンパーの生産で国内トップシェアを誇る株式会社ソミック石川では、バックオフィス部門のフルリモートワークをほぼ可能にしています。製造部門でもデジタル化を進め、生産現場とのやり取りをオンラインで行えるようにしたとのこと。国内グループ全体で約2,000名になる同社では、どのようにテレワークを推進してきたのでしょうか?

この対談では、テレワークへの考え方と自動車業界に訪れるDXの波について、ハマリモ!アドバイザーの杉浦直樹が同社取締役の石川彰吾氏(以下、石川氏)に伺いました。

※この対談は、浜松魅力発信館 The GATE HAMAMATSU(ザ・ゲート・ハママツ)裏に配置された「オフィスカー」を利用して行いました。
 

「テレワーク」はビッグワード、自社・事業にあわせた因数分解と安心して取り組める仕組みづくりを

▲石川彰吾氏
▲石川彰吾氏

杉浦:御社は製造業の中でも珍しく、全社的なテレワーク導入を目指してきた1社でいらっしゃいます。ただ、事例紹介のためにお話を伺った際にコロナ以前は、「テレワークをやるかやらないの議論から先に進められなかった」とおっしゃっていましたね。引き金になったのは、2020年2月下旬ころに顕著化した新型コロナウイルスの感染拡大だった、と。

石川氏:はい。テレワークできる環境を整備することは、業務のデジタル化を推進することでもあります。カーメーカーを中心に自動車業界でもデジタル化が進む中、当然私たちも環境整備を進めなければいけない。そうした課題がありながら、本当のきっかけはコロナ禍の発生までありませんでした。その要因は、2つあります。1つは、「因数分解」をしていなかったことでした。

会社という組織を機能で因数分解すると、製造および製造を支援する組織の2つに大きく分かれます。この時点で、まったく別々の機能になります。ところが、テレワークの導入となると、なぜか全社的に進めようとしていました。今考えると、ナンセンスなやり方だったと思います。

もう1つの要因は、事業体の問題です。弊社は製造業なので、ものづくり(生産活動寄り)の発想をしてしまいがちです。すると、生産の効率化は製造現場ががんばれば何とかできるという結論になってしまうのです。IT投資をしたいと思っていても、意思決定にはなかなか至りませんでした。

杉浦:事業の大部分を担うのが生産現場であり、そこへのメリットが打ち出せない限り、テレワークも進められないという状況だったのですね。

石川氏:はい、そんな中で起きたのがコロナ問題です。もはや、やらないという選択肢はなくなりました。万が一集団感染が起きようものなら、お客さまへの供給責任を果たせなくなるばかりか、国内グループで2,000人を超える社員とそのご家族みなさんへ多大なご迷惑が及んでしまうからです。

弊社でもテレワークの導入が決まり、「何を」「どのレベルで」「どうやって」実現するかの因数分解がやっと始まりました。

杉浦:そこからロードマップを引き、コミュニケーション基盤を中心としたテレワークの環境整備から始めたとおっしゃっていましたね。

石川氏:そうです。新型コロナの流行から1年が経ち、第1フェーズである環境整備が終わって第2フェーズの定着段階に入りました。今は、テレワークによる働き方をどう全社で実現していくか、という議論を進めています。最終的には、製造現場の多くを含めた全社でテレワーク出来る環境を整えるのが目標になると思っています。

杉浦:トップがやると決めて一歩を踏み出すと、あとは現場で改善を重ねるフェーズに移りますよね。

石川氏:そうですね。ただ、テレワークをトップダウンで進めるにあたって意識したこともありました。それが、推進の中心となる人たちに安心して取り組んでもらえる環境を作ることでした。

人は習慣の生き物です。これまでの習慣が変わってしまうことは、多くの人にとって不安に感じられるでしょう。だからこそ、何かを変えるときには、関係者全員が安心して関われるようなルールや仕組みを整え運用していくことが重要だと考えています。


▲ソミックグループでは、マイクロソフト社の提供する協業アプリ「Microsoft Teams(チームズ)」を有効活用するため、有志および部門長向けの勉強会を開催。テレワークの本質と自社で実施する意味を理解した人員を起点として、部門レベルでテレワークを実装した。

石川氏:“トップダウン”という言葉には、物事を強引に推し進めるイメージが付いてまわるかもしれません。しかし、私が思い描くトップダウンは違います。少なくとも、関わる人たちの心理的安全性・納得が得られて成り立つものだと考えています。

テレワークを推進するあたり、部門長のみなさんとコミュニケーションを良く取るようにしました。とくに、テレワーク下でのコミュニケーションの取り方を議論しましたね。不安があるときは、遠慮なく報告してほしいということも伝えました。すると、その後からは、各部門長の采配で多くのことが進んでいったのです。

杉浦:トップダウンで決め、ボトムアップで実施していくようなイメージでしょうか。変化が速く、着実に推進できそうだと思いました。

石川氏:今すぐの変更が難しい部分は、長期的に取り組んだり工夫で乗り切ったりすれば良いと思います。テレワーク下でも、リアルのやり取りが必要だったり効果的になったりする場面はあります。目的から逆算し、今より良くなる部分に絞ってオンラインに切り替えること。これがじつは、テレワークを円滑に進めるうえでのポイントではないかと思っています。
 

テレワークできる環境を整えることがデジタル化・DXの波に乗る下地となる


杉浦:テレワークを実施できるようにするには、業務のデジタル化が必須だと思います。御社の場合はデジタル化によって、お客さまであるカーメーカーとシームレスにつながることが求められているのではないでしょうか?

石川氏:確かに、設計システムはすでにカーメーカーの情報システムと連携し、部品設計データをタイムリーにやり取りしてきました。これからは、カーメーカーのPLM(製品ライフルサイクル全体を管理するシステム)と連携する可能性が高いでしょう。お互いの生産情報をリアルタイムにやり取りし、生産性を高める取り組みが間違いなく進んでいくと思っています。カーメーカーにおけるDXは急速に進んでいるので、私たちがどれだけ素早く対応できるかが重要です。

杉浦:自動車業界は裾野が広いものです。今後はカーメーカだけでなく、協力会社ともオンラインでつながることが求められるかもしれませんね。例えば、部品の製造データは、御社に納品いただく企業からもリアルタイムに受け取りたいのではないでしょうか。

石川氏:おっしゃる通りです。業界全体で起きているDXの波に乗るためには、私たちサプライヤーもバックキャスティング思考(未来のあるべき姿に対して現在の施策を考える方法)を持つことが大事かもしれません。

お客さまは、10年先や30年先の未来を描いています。例えば、トヨタさんでは「Woven City(ウーブン・シティ)」のように未来に向けた動きがスタートしています。


▲あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「Woven City」を静岡県裾野市に計画、2021年2月下旬より本格始動(画像引用:トヨタ公式「e-Palette Concept」より)

石川氏:そうした未来が私たちサプライヤーにとってどのような意味を持つかを考え、どのように行動するかを決めなければいけません。私たちにも協力会社がいてくださるので、ソミックグループならではのビジョンを掲げる必要もあります。お客さまが未来を創造するスピードと同等、もしくはそれ以上の速さで変わっていけるようなビジョンです。

杉浦:お客さまのビジョンを見据えたうえで自社のビジョンも描いていく、ということですね。今現在お付き合いのある協力会社には、御社のビジョンに共感してともに未来を創ってほしいと思われていることでしょう。ビジョンを達成するために、お互いがデジタルにつながり、トライアンドエラーを重ねることは必須になりますね。
 

非日常感から社外のつながりが生まれるテレワークパークの可能性


杉浦:今日、石川さんには、「オフィスカー」内でテレワークを実施いただいています。使い道やあると良い機能などを、1年前からテレワークに取り組んできた石川さんにお聞きできると嬉しいです。

石川氏:月並みな言葉ですが、率直な感想は「めちゃくちゃ良い」に尽きますね。その理由は、この非日常感です。車の中で仕事をすることが普段ないので、とてもワクワクします。

このワクワク感は、オンラインでつながっている社のメンバーにも伝わるはずです。雑談が生まれやすくなり、コミュニケーションが活性化する期待が持てます。個室になっていて外の音が気にならないので、仕事をする環境としてもとても良いですね。

杉浦:ありがとうございます。ちなみに、今日は4号機をご利用なんですよね。

石川氏:「戦隊モノ」を感じさせる呼び方で良いですよね(笑)。「今日、オレ、4号機乗ってるんだぜ」といった会話も生まれるのではないですか?

さらにオフィスカーを自社で所有すれば、内装を自由にアレンジできて良いと思います。テレワークパークに集まったメンバー同士で、内装を見せあいっこしても面白いと想像しました。

杉浦さん:なるほど、自分の好みや仕事の目的に合わせて内装を考えるのは楽しいですね。

石川氏:この浜松にはさまざまな企業があるので、会社の枠を超えてテレワークパークに集まれないでしょうか?まさにそうしたときが、社外の人とつながるタイミングだと思います。新人研修やバックオフィス部門の研修をやってみるのも良いかもしれません。

杉浦さん:研修とは、良いアイデアです。社内にいることが多いバックオフィスのみなさんに、社外の同部門の人たちと交流する機会を提供できたら嬉しいです。

石川さんが率先してテレワークに取り組んでいらっしゃることで、そうした新たな取り組みも御社の社員みなさんに興味を持ってもらえそうだと思いました。

石川氏:ええ、そう思います。まず私がやってみて大きな問題がなかったものなら、やって良いんだとわかりますよね。テレワーク下で「何を」「どこまで」やって良いかの“さじ加減”は、誰しも悩むポイントだと思うのです。

失敗もリーダーがするのが良いと思っています。失敗したときに責められる確率の一番小さいのが、リーダーだからです。まず私がやってみてうまくいかなかったら、「あそこまでやると、ああやって失敗するんだな」と見てわかりますよね。

杉浦:同感です。全社的な取り組みも、まずリーダーが実践することで根付いていくと思うので。

石川氏:テレワークについても、私たちの取り組みは決してベストプラクティスではないと思っています。ベストプラクティスは、業界のリーダー企業や行政のみなさんが世の中に示してくださるものではないでしょうか。

だからこそ、私たちのような地域プレーヤーの役割は、たくさんのトライアルをすることにあります。挑戦することで、本当にできそうだとか、改善が必要だといったディスカッションが地域に生まれます。このように取り組みをあらゆる視点から検討いただき、ベストプラクティスつなげていくこと。それが私たちに求められる役割であると同時に、浜松をより良くしてことにつながるのではないかと考えています。

どんなに世の中が変わったとしても、人間が主役であることは変わらないでしょう。弊社では社長を筆頭とし、社員の先にいるご家族も含めた人のつながりを非常に大切に考えています。お互いに離れて働くデメリットばかりを捉えるのではなく、テレワークを起点につながりをより強くする方向に発展していけたらと思いますね。

それが、ソミックのグループ全体、ひいてはこの地域の成長につながると信じています。

杉浦:石川さんとお話させていただいたことで、私も覚悟を決めてテレワークパーク事業に取り組んでいこうと思いました。ともに発展していけたら嬉しいです。今日は、ありがとうございます。

石川氏:こちらのほうこそ、今日は貴重な機会をありがとうございます。

 

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