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【対談コラム】中小企業におけるデジタル化の本質は、社長の“探索”によるビジネスの創出


テレワークを進めるにあたって避けて通れないのが、業務のデジタル化です。しかしながら、「やらなくてはいけないから」「コロナ禍で仕方なく」といった意識の企業も少なくないのではないでしょうか?

じつは、デジタル化は、中小企業において新たなビジネスモデルを確立するための一歩となります。労働人口の減少をはじめとする大きな構造変化に対応していくためにも、デジタル化を進めて業務のやり方そのものを変えたり、生産性向上を図ることが重要です。

浜松でも、デジタル化を進め、場所に捉われない働き方を実現する企業が増えています。そうした企業からオープンになって他社とつながり、人や知識の掛け合わせによるイノベーションを生んでいるとのこと。

そこで今回は、デジタル化の効果と考え方について意見を交わすべく、ハマリモ!アドバイザーの沢渡あまねと杉浦直樹による対談を企画しました。

この対談では、浜松市北部にある船明(ふなぎら)ダムとその近隣にある天竜トライアルオフィスを訪れました。開放感あふれる自然の中でテレワークする様子とともにお届けします。
 

デジタル化で既存事業を筋肉質に、社長は新規事業の創出に注力を


沢渡:杉浦さんは、デジタル化を通じて浜松における中小企業の業務改善を支援してきた第一人者だと思います。デジタル化によるポジティブな変化を教えていただけますでしょうか?

杉浦:デジタル化を進めると、社員それぞれが本来やるべきこと以外やる必要がなくなっていきます。これは、企業規模に関わらず、です。

例えば、もしも現場に小口現金があるとしたら、それだけ備品を買いに行くことに社員の時間を使っているということです。本来は、発注した備品が現場に届けばいいので、ネットで買っても良いと思いませんか?

ネット発注を可能にするのはデジタル化のひとつですが、デジタル化を通じて発注業務そのものをITシステムの中に組み込むこともできます。

沢渡:なるほど。発注業務そのものをITで行うようになると、いわゆる間接業務が減りますね。申請書を作る手間や決裁のハンコをもらう手間、伝票を処理するといったことすべて。

杉浦:そうなんです。そうしたひと手間がなくなると、その社員が本来やるべき業務に集中できます。もちろん、終業も早くなりますよね。業務改善をお手伝いして、月250時間だった労務時間が月80時間にまで削減できた例もあります。

沢渡:素晴らしい成果ですね。また、業務をワークフローシステムに乗せることは、業務を見える化することにもなります。

杉浦:そうですね、業務の進捗を社内でシェアできるのはメリットです。タスクや書類を「だれが」「どういった形で持っているか」がわかるようになるので、処理スピードが上がりますし現場のストレスも減ります。

沢渡:会計の中枢だけでなく、日々の申請や承認、支払いといった間接業務を、ITシステムに組み込んでいくのが大事ですね。

杉浦:おっしゃる通りです。そして、業務システムを導入するときは、権限設計をしなければいけません。「だれが」「何を」「どこまでできるのか」を明確にする必要がありますが、そこができていない中小企業はまだ多い印象です。


▲静岡県浜松市、北部にある天竜区(旧天竜市)にある船明ダム。南アルプスのふもとに水源を有する一等河川、天竜川水系において最下流に位置する。

沢渡:権限設計ができていないと、「すべて社長が決裁します」といったことにもなりかねません。そして、意思決定がどんどん遅くなってしまいます。例えば、「社長が出張に行っていて申請承認のフローが回せない」というように。

杉浦:すると、社員も「仕方ない、進めてしまおう」と、独自で判断しはじめるようになってしまうんですよね。

なので、じつはデジタル化とは、「社長が手放す作業」なんだと思っています。「何を」「どこまで」現場に任せるのか決める。そうした社長からの権限移譲が一番のポイントになるんです。

沢渡:私は、コラボレーションこそ、これからの企業の生き残り戦略と言ってきました。それは、もはや1社だけではビジネスの正解を出せない時代だからです。少子高齢化と環境変化がますます激しくなれば、求められる技術や知識も変化していきます。

そうした不確実性の高い時代だからこそ、オープンに他社・他者とつながっていく必要があります。これは、大企業も中小企業も変わらないと思います。

杉浦:本当ですね。これだけ時代の変化が速いと、つねに次なるビジネスの柱を探し続けなければなりません。そのためには、勇者がレベルアップの旅に出るように、社長や幹部クラスの人たちが“探索”に出かける必要があります。

社内で任せられるものは任せて、ビジネスの可能性や自社の社会的価値を本気で考えるといったことに、社長は力を使ったほうが良いと思います。

沢渡:「社長は、自由になりましょう」と。そのためにデジタル化を進めてムリ・ムダをなくし、既存業務は筋肉質にしていく必要があるということですね。

 

社長の“探索”から生まれた「浜松テレワークパーク構想」


沢渡:ところで、杉浦さんも自社のデジタルワーク化を進めてご自身が自由に飛び回ることで、新しい取り組みを始められたと聞きました。

杉浦:ありがとうございます。税理士事務所、バックオフィス支援の会社とやってきて、いまは「車を作っている」といった話がありまして......。
 
沢渡:車をですか!
 
杉浦:はい。まさに私の中の“探索領域”のひとつなんですが、実行委員会のリーダーとなり「浜松テレワークパーク構想」を進めているところなんです。

沢渡:先日、新聞にも載って話題ですね。この取り組みについて教えてください。

杉浦:シンプルに言うと、駐車場に電源やWi-Fi環境を整備して、人が働きに集まれる場所にしていこうというプロジェクトです。そのビジョンに合わせて、車内を改装しワーキングスペースとして使えるようにした軽ワゴン車の「オフィスカー」を、地元の自動車販売会社さんや工務店さんと一緒に開発しています。


▲オフィスカーでのダム際ワーキングの様子(船明ダムにて)

沢渡:どんなきっかけでそのアイデアに辿りついたんですか?

杉浦:きっかけは、弊社で運営しているオープンイノベーションス拠点のThe Garage for Startupsでした。あるとき、The Garageのメンバーで、「実は、車って、オフィスとして使えるんじゃないか」、なんて話が盛り上がったんです。
 
コロナ禍をきっかけにテレワークを導入した会社が多いですが、いろんな問題がありましたよね。家に個室がないとか、在宅ワークは寂しいといった。そんな背景もあって、「駐車場に集まって、車内でテレワークしたらどう?」と、話が盛り上がったんですよ。
 
そこから自動車メーカーのスズキさんやデジタルキーに強い東海理化さん、さらには浜松市さんが参加してくださり、気が付いたら協議会ができて実証実験をやることになっていました。
 
沢渡:まさに、"探索"に出かけた各方面のリーダーが、The Garageでワイワイガヤガヤする中で見つけた新事業ということですね。
 
杉浦:そうなんです。なので、もしかしたら来年あたり、弊社でレンタカー事業をやっているかもしれません(笑)。社長の“探索”には、それほどのポテンシャルがあるということなんです。
 
沢渡:私自身、浜松の企業で顧問をしていたり、取締役を務める金沢の企業で浜松ワークスタイルLABOを開設したりと、浜松に身を置いて生活しています。車で30分~1時間ほど走れば豊かな自然に触れられる浜松のこの環境において、テレワークパークはとても良い取り組みですね。
 
オフィスカーを借りて、浜松市内の自然のある場所に出かけて仕事をしてみる。すると、新たな出会いが生まれたり、自分ひとりでは思いつかないアイデアが生まれたりするはずです。集まった人たちで新しい企画をディスカッションしてみるのも面白いですね。
 
杉浦:そうですね。今まで知り得なかった人と知り合い交流が生まれると、何かが生まれる確率は高まると思います。

そうした交流ができるコミュニティになっていけると良いなと思って、テレワークパーク構想を進めているところです。
 

浜松テレワークパーク構想とは?


働ける個室のオフィスカーとコミュニティ形成地としてのテレワークパークからなる新たな働き方の提唱です。20202年11月中旬より「オフィスカー」の実証実験が開始されました。浜松駅から徒歩3分のところにある浜松魅力発信館 The GATE HAMAMATSU(浜松市中区旭町37)に「オフィスカー」5台を配備しています。

テレワークをする場合は、浜松駅周辺の駐車場か弁天島海浜公園をテレワークパークとして利用できます。「オフィスカー」専用の電源が備わっているので、エンジンを停めてゆっくり仕事をしていただけます。

現在は、関係者のみトライアル可能ですが、状況を見ながら一般開放を進めます。今後の情報については、総合案内サイトをご確認ください。



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「ダム際ワーキング」が、地域の魅力をアップする


杉浦:今日、対談をしてみて、ダム際はテレワークパークと親和性がとても高いと思いました。ダム際や附置駐車場がただ車を止めるスペースではなく、仕事をしに人が集まる場所になったら最高だなと。

沢渡:最近、休暇を利用しながらテレワークする「ワーケーション」が注目されていますよね。「ワーク」と「バケーション」の造語ですが、広義には、勤務時間を郊外などの自然のあるところでリフレッシュしながら仕事することで、生産性を高めることも含まれると思います。

私も趣味のダムめぐりとワークスタイルの専門家という立場の掛け算で、 #ダム際ワーキング というコンセプトを立ち上げました。この度、袋井土木事務所さんとのコラボレーションが実現して、森町では公式に太田川ダムでのダム際ワーキングが始まりました。

▼沢渡氏が提唱し、自ら実践している #ダム際ワーキング のイメージはこちら
#ダム際ワーキング × #ダムマンガ 放流!|沢渡あまね|note

このダム際ワーキングに申し込んでいただくと、袋井土木事務所の管理者の方がダム設備の見学ツアーをしてくれます。「太田川ダムカレー」が名物の近隣レストランのクーポンも付いていて、すでに企業から申し込みも入ったそうです。

杉浦:ダム際ワーキングが活発化すると、「ダム際にどういう機能があると人は集うのか」といった議論が生まれてきそうですね。

「浜松テレワークパーク構想」でも、次なるニーズをめぐるアイデアが生まれています。今は、車から出てみんなが集えるカフェのような場所を作れたらと話し合っているところです。

沢渡:今日も、ダム際で少し仕事をしたあと、船明ダムから約4キロのところにある天竜トライアルオフィスに来ました。ダムの近隣に、こうしたコワーキングスペースやカフェが近隣にもあるのはとても良いと思います。

ダムを軸に地域に人が集まれば、周辺で食事をしたり交流が生まれたりといった地域活性につながりますね。


▲天竜トライアルオフィスは、カフェKissa&Dining 山ノ舎(やまのいえ)に併設している。コワーキングスペースの利用者は、カフェメニューのオーダーも可能。

杉浦:仕事ができるダム際があり、そこにはコミュニティもある。それが実現すると、別の場所でもテレワークのニーズに応えられるかもしれません。例えば、キャンプをしながら働きたいという人もいるのではないでしょうか。

そうして、浜松が、テレワークできるエリアとして面で整備されていくと良いですよね。このエリアはさらに魅力的になっていくと思うんです。

沢渡:外から来た人たちが浜松の面白い人たちと会え、コラボレーションが起きる。そういう街になっていくと、浜松のファンがますます増えていくでしょう。すると、交流がますます増え、市内外の企業・人はお互いに良い効果を得られるようになると思っています。

杉浦:本当ですね。さまざまな機会を受け入れやすい街になった方が、外からの流入も増え、あちこちで経済活動が起こるでしょう。人が動くだけでも経済活動になりますからね。

沢渡:そのためにも、まずは、一丁目一番地であるデジタル化をそれぞれの企業が進める必要があります。浜松の企業や中小企業から率先して進めていき、“探索”する余裕を生み出していかなければいけませんね。

杉浦:そうですね。デジタルワーク化による新たな価値の創造、ぜひ私たちから実践していきましょう。

沢渡:はい、ぜひ。今日はありがとうございました。

杉浦:ありがとうございました。
 

業務設計や権限設計に役立つ書籍のご紹介

ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方』沢渡 あまね、新井 剛 共著

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