寄稿コラム

【寄稿コラム:野水克也氏】テレワークができるかどうかは、優秀な人材を獲得できるかの試金石

野水 克也氏
サイボウズ株式会社 チームワーク総研/社長室フェロー
2000年サイボウズ入社。サイボウズがいわゆる「ブラック」な働き方をしていた時代から在籍。広告宣伝・販売促進をはじめ、マーケティング部長、クラウド販売責任者等を歴任し、2012年8月より社長室フェロー。現在は、ブラックな業界経験、ブラック時代から現在に至る激動の体験を身をもって語れるエバンジェリストとして、働き方改革についての講演を多く担当。取材やインタビュー力を生かした、お客様の事例をふんだんに盛り込んだ講演には定評がある。一般社団法人クラウド活用・地域ICT投資促進協議会 理事、内閣官房IT戦略会議 電子行政オープンデータ実務者会議 構成員を歴任。

 

平成は本当に平静な時代だった


このコラムは中小企業の経営者や人事総務の方がよく読まれると聞きました。ですので40代50代のマネージャー向けのメッセージとして書かせていただきます。

さっき見たニュースで、さんまが歴史的不漁で1匹6000円だそうです。ちょっと前までなら全く考えられなかった話ですね。

ここのところ異常気象や新型コロナウイルスなど今までになかった現象が次々と起きています。
しかし異常気象の異常と言うのはどういう定義なんでしょう?

気候が一定周期で変わることって、地球にとってはごく当たり前のことです。
つまり、私たちが言う異常気象とはたかだかここ50年程度の話で、気候も変わってゆくのです。今からはこういうことが起きるのが普通と思った方が良いのかもしれません。

さんまがいなくなったからといって魚がいなくなるわけではなく、おそらくちょっと違う場所に今までとは違う魚が出現しているんじゃないかと思います。松下幸之助の「雨が降ったら傘をさせ」と言う言葉は、世の中が変わったら、きちんと事実を受け止めて変化対応しましょうと言っているに過ぎません。

平成の30年間は本当に何も変わらない平和な30年間でした。
昭和20年から50年にかけての変化と、平成元年から平成30年にかけての変化の違いを頭に思い浮かべてみてください。
平成のあまりの変わらなさすぎに唖然とするかと思います。

私たちはこの平成の時代に慣れすぎてしまいました。私たちはもっと変化するのが当たり前なのかもしれません。

コロナ禍で役所が変わり始めた

おかげさまで私が所属するサイボウズはこのコロナ禍でも前年比プラスで成長させていただけております。しかしここ5ヶ月間の間の日本橋のオフィスの出勤率は多くても5%です。
それでも売り上げを上げることができたり、事業を続けることができているのは、テレワークのおかげです。

「IT企業だからテレワークでも成長できるんだろう」とよく言われますが、IT業界全体で見ると実は売上高は前年比マイナスだそうです。
そしてIT企業の中でも、テレワークができないと言っている会社は山のようにあります。不思議な話ではありますが。

そして、私自身はここ4ヶ月間ほとんど会社に行ってはいませんが、実は前よりもずっと忙しい生活を送っております。
私の最近の仕事は、全国を講演して回ることと、いくつかの自治体と持続可能な地方創生の可能性を探り、作り上げることです。
もちろんコロナ禍で、会場に出向いての講演の仕事は激減しました。4月5月は出張すらもありませんでした。

ところがゴールデンウィークの前あたりから、自治体などからの問い合わせが激増してきました。
地方での仕事と言えば、今まではだいたい「来月いつこちらに来れますか?」のようなメールから始まり、出張予定を組み立て、次の月にそこへ行き、帰ってきてまた2ヶ月後に行くと言うような仕事のやり方がメインでした。

しかし、一度ZOOMなどのテレビ会議で味をしめた担当者から、「明日ズーム会議する時間はありますか?」と言うような問い合わせが増えてきたのです。
おかげで、多い時は一日に4件、それも北海道と東北と中部と九州の自治体と会議をするようになりました。

もちろんただ会議だけをしているわけではありません。会議の後には必ずタスクが発生し、それが終わるとすぐまた次の会議がやってきます。
おかげで公共案件としては今までの私の記憶にはない凄いスピードで案件が進展していきました。

兵庫県の加古川市で、マイナンバーカードを使わずに10万円の定額給付金をオンライン申請できるようになったこと、などはその結果です。実はこのシステムはわずか1週間で作り上げたものです。
他の自治体でも、AIを使って自動的に書類をデータベースに読み込むシステムなどを手掛けました。すべてクラウドを活用しますので役所の庁舎内だけではなく、どこにいても職員が審査や事務手続きができるようになるものです。

前年度までなら、これらのシステムは早くても半年、長い場合は調整なども含めて数年間かかって相応の予算のもとで作り上げてきたものです。もちろん短期間で仕上げたものばかりで、完璧なものではありませんが、それでもわずかな予算と超短期間でこれまでの仕組みが大きく変わりました。

まるでサイボウズが小さなベンチャー企業だった頃のような興奮とスピード感で、(失礼ながら)役所と仕事を進めることができた事は、私にとってはとても新鮮でとても楽しいものでした。
役所が変わると地方全体が変わります。コロナは早く収束してほしいですが、コロナ禍で起こった自治体の変化は、日本全体にとって大きなターニングポイントなのかもしれません。

働き方改革とは未来に対する最良の投資である

さて、それではなぜ今まで私たちは変わることができなかったのでしょう。
それは一見平和な30年だったので、変わる必要がなかったからです。
しかしグローバルという視点で見ると日本はもはや先進国とは言えない状況になってきています。つまり茹で蛙状態です。
茹で蛙は、やがてお湯が沸騰してくると死んでしまいます。

20年後あなたの会社の事業は世の中に必要とされていますか?
20年後、世界がどうなっているかは私にもわかりません。ただ、確実な事は20年後も今の50代のほとんどの方はまだ生きています。そして今の20代30代の方は社会の、そして会社の中心になっています。

今の仕事のやり方をそのまま続けていった先に未来があるでしょうか?

では、どうすればいいのでしょう。
そのためには独創的なアイデアが必要です、優秀な人材も必要です、どちらも「うちの会社にはない」と言う声をたくさん聞きます。
では、なぜ会社に良い人材が集まってこないのでしょうか?

ある大学生に対しての調査で、人気の職業ランキングの1位は数年連続で地方公務員です。国家公務員は2位か3位あたりです。つまり、みんな東京よりできれば地元で暮らしたいし、地元で仕事をしたいのです。

良い人材が来ないのは会社が田舎にあるからではなく、会社に魅力がないからです。

若い人にとっての魅力、つまり会社に期待している事は何だと思いますか?
給料の額、成長性、出世のしやすさ、福利厚生、休みの多さ、やりがい、人間関係、もちろんどれも大切なことです。

高度成長期に育った今の40代50代と比べて、平成に育った若者たちは価値観がかなり違います。つまりがむしゃらな我慢や努力をしても成長に結びつくことが少ないと言うことを肌で知っているのです。
そして彼らは旧来のやり方で仕事を続けていると、20年後自分たちがどうなってしまうかもよくわかっています。

彼らは、自分で自分の未来を作らなければいけないことをよく知っています。ですから自分が成長できる、自ら変わることができるそういう環境を望んでいます。

そういう環境を私たちは提供することができているのでしょうか。

例えば、私の場合は、私の部下たちを変える事は、私の力ではできないと思っています。
私の仕事のやり方や私の価値観は、おそらく同世代の方からは異質なほど先端を走っていると思われていますが、若い人たちに次の世代を示せるほど新しくはありません。
そして、自分自身、自分の中にある古い価値観と毎日戦いをしています。私にとってのお手本は、もう後輩や部下たちなのです。

そうなってしまった場合、私ができる事は後輩や部下たちが自分で自分を変えてゆく、そういう環境を整えてあげることだと思います。それが働き方改革の本質ではないかと思うのです。

 

テレワークができない会社は成長できないと思う理由

私たちは怖いのです。私たちがいなかったら会社が回らなくなってしまうことではなく、私たちがいなくなっても会社が普通に回ることが怖いのです。
私たちが席に座っていなかったら困る、ではなく、私たちが家にいたら家族が困るのではないかということを知るのが怖いのです。

でも、そうではありません。私たちの仕事は、部下を監視することでもなく、部下の成績を管理することでもなく、次の世代が安心して暮らせる環境を作ることが仕事なのです。子育てと同じですよね。

高度成長期の日本は入社してくる新人が知識もなく社会のことも何も知らない状態でした。
家庭で言えば幼稚園児や小学生に教えるようなものです。この若者たちを一人前にするために先輩たちは手取り足取り仕事を教えて一人前にしていきました。
ときには「言うとおりにやってみて」と言ったり、同じ目標に向かって競争させたりすることもあったでしょう。

しかし、今入社してくる若者たちはほとんどが大学卒です。インターネットなどで知識も豊富に持っています。何より今、会社が社員に求めている事は、安いものを大量に生産することではなく、他社にはない独創的な製品やサービスや仕組みを生み出すことです。

彼らに「言う通りにしろ」と言ったり、同じ目標を与えて競争させることにあまり意味はありません。入社した時から、彼らは自分でものを考えることができる成長した人間です。

彼らに必要なのは、「ワクワクする理想」なんじゃないかなと思います。
「こういう社会が実現できたらすごいよね」「こういうサービスができたらすごいよね」という理想を見せてあげられれば、そしてそれがワクワクするものであれば、彼らはがむしゃらにそれを実現しようと、私たちが思いもつかなかった斬新な発想を見せてくれるでしょう。

それを引き出してあげるのがマネージャーや経営者の役割だと思います。

そう考えた場合、会社に絶対出社して仕事するということに、どれぐらいの意味があるでしょうか。
そしてテレワークを許可してくれない、もしくはやってない会社と言うのは、優秀な若者の目に一体どう映るでしょうか。

弊社サイボウズで新しいサービスを生み出したり、事業の中核で活躍するマネージャーは多くが30代です。彼らの発想や仕事のやり方を見ていると、もうアラフィフ世代が会社を、そして社会を引っ張って行く時代ではなくなったんだなあと感じるようになりました。

それに気づいたとき、自分が試行錯誤しながらマネジメントスタイルを変えていった意味を、本当の意味で理解したのです。


優秀な人が集まる環境を作りそれを支援するのがマネージャーの仕事

サイボウズは決して給料の高い会社ではありません。ライバル企業に比べれば、平均給与はむしろ安い方だと思います。にもかかわらず、最近は本当に優秀な若者たちが入ってきます。

日本で最も偏差値の高い大学や海外の有名大学などからの新卒入社はもはや当たり前で、むしろその中から選ぶ方に苦労します。
日本で最も多くの利益を出す会社からの転職、就職人気ランキング上位常連の企業からの転職、中央省庁からの転職(しかもバリバリのキャリア)、面接をする私たちが「ほんとにうちに転職していいんですか?」と聞き返す始末です。

優秀な若い人たちが欲しがっているのは、すばらしい未来を実現するワクワクする理想、自分が成長できる機会、そしてやりたいことができる環境です。

サイボウズにはしっかりとした研修制度はありませんが、勉強したいと思えば、その時間、その講師、その環境を彼らが整えるための支援をするたくさんの制度があります。

管理職が教えたがっている事は今年や来年に役立つ知識です。しかし若い彼らが求めているのは、5年後10年後に役立つ知識です。どちらが正しいかと言えば、大体の場合若い人の方が正しいことが多いように思います。

それは、今までの歴史が証明しています。
管理職の方が、今年度来年度の目標だけを見て邁進するのは仕方がない面もありますが、経営者まで同じ目線で事業を行っていれば、20年経っても会社は変わらないのは当然ですね。

経営者はもちろんですが、マネージャーの役割も変わりつつあります。管理がマネージャーの仕事だった時代はもう終りました。これからは部下が成長するための支援をする時代です。
新しいマネージャーの仕事はむしろテレワークの環境の方がよくできるんじゃないかと思います。

サイボウズでは部署によっても違いますが、定期的に部下と上司、同僚や違う部署のメンバーが1対1で「ザツダン」をする文化があります。
その時間の中で、もちろんシリアスな話になる場合もありますが、本当に雑談としか言えない話をして1時間終わる場合も多くあります。そこで語られているのは他愛もない話のように見えて実は「共通の理想」の確認作業ではないかなと思うことがよくあります。

お互いに話をすることで、お互いがよりワクワクできる、そのワクワクする理想に向かってみんながもっといい仕事する。マネージャーはそのワクワクする理想をどんどん広げていくのが仕事なのです。

地方で成長する方法

 

地方の優秀な大学生たちが就職しようと思った場合、待遇と環境で悩みます。そして結果として優秀で待遇を求める学生は東京の会社に就職してしまいます。しかし環境を重視する優秀な学生を地方の会社は見逃しています。

せっかく地元の会社でのびのびと自分の力を発揮したいと思っている若者たちを、固定した働き方や、昔ながらの上位下達の指揮命令でやる気を失わせ、みすみす都会に逃してしまっているのが現状ではないでしょうか。

優秀で長時間働きますという人材は都会の大企業にとられてしまいます。次の選択肢として優秀ですけど働き方は自由でいたいという人材と、それほどセンスはないけれども長時間働きますと言う人のどっちを取るでしょうか。

ほとんどの企業は後者を採用します。おかげで後者は超激戦区となり、前者はブルーオーシャンです。
「上司の言うとおりに働きます!」と言う人ばかり採用しておいて、「うちの社員には独創性がない」と嘆く経営者が世の中にはなんと多いことか。
「理想の世の中」ではなく「売り上げ目標」だけを掲げておいて、「うちの社員は目の輝きがない」と嘆く経営者がなんと多いことか。

地方の企業が成長できる機会はまだまだ無限にあります。たかがテレワークぐらい軽くやってみせてあげようではありませんか。

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