リモート化と正直な社風の“両輪経営”で中小製造業の根本を変えた小沢精密工業

世界に名だたるモノづくり企業が認める精密加工メーカー、株式会社小沢精密工業(以下、小沢精密工業)。高い金属加工技術を生かし、管楽器をはじめ、CT検査装置や半導体製造装置といった精密機器の金属部品加工を手掛けています。

専門性の高い仕事ではありますが、入社希望の若手人材が増えているそう。社員の自主性を大事にする社風から、近年では航空機産業にもチャレンジしています。

そんな小沢精密工業で社内改革を進める手がかりのひとつが“生産現場のリモート化”だったとのこと。代表取締役の小澤大祐さんにお話を伺いました。

【会社概要】

会社名   : 株式会社小沢精密工業

設立    : 1982年7月1日

代表者   : 代表取締役社長 小澤 大祐

所在地   : 静岡県浜松市浜北区染地台6-11-10

主な事業内容: 楽器部品、光学機器部品、医療機器部品の精密加工

総従業員数 : 82人

会社URL  : https://www.ozasei.co.jp/

目次

働きやすく人の集まる会社にするためリモート化で生産現場を一変

代表の小澤大祐さん。若くして3代目に就任し、社内改革に取り組んできた

「モノづくりを加速し、お客さまに製品と時間を提供する」をモットーとする小沢精密工業。その工場には、5軸マシニングセンタやNC旋盤など、50台にもおよぶ工作機械が並んでいます。

一部は夜間の無人運転にも対応し、24時間フル稼働も可能に。DMG森精機のIoTパッケージを活用し、20台もの工作機械の稼働状況を遠隔でモニタリングしています。

金属を加工する工作機械を動かすために必要なのが、材料の削り方を指示するプログラミングコードです。その加工プログラムも、専用のソフトウェアを使うことで、本社事務所や自宅のパソコンでも作成できるようになったといいます。

あとは加工プログラムを工作機械にセットしてスタートボタンを押せば、自動で加工が始まります。現場での作業はほとんどいらず、加工が完了するまで持ち場を離れて他の仕事をしていても大丈夫です。

加工プログラムを作成する場所によって、製品の仕上がりに差が出るわけでもありません。『今日は自宅でプログラムを書くことに集中し、機械を動かすのは翌日に』という働き方も可能です。リモートワークができる環境は整っていますね」

と、小澤社長。

ハマリモ!製造業のテレワーク
精緻な作業が求められる繊細な仕事。「現場を見ていないと不安」という社員の声に応えているため、フルリモートの働き方はこれからの検討事項

小沢精密工業のリモートワーク環境はかなり進んだ印象ですが、これほどまでに整備を急いだのはなぜでしょうか?それは、前社長である小澤社長のお父さまが急逝されたことが発端でした。会社を継ぐ話をされたことも、経営の考えを聞いたことも一切なく、何の準備もないまま社長を継がなければいけなかったといいます。

前職の引継ぎがあったために、小澤社長が経営に携われるまで半年ほどの空白期間ができてしまいました。ようやく現場に就けたと思えば、生産現場は大変な状態に……。納期遅延が世界2位でクライアントから監査が入る。多い人で残業時間が80時間を超えており、労働基準監督署が来る。改革は急務ですが、問題は「人」でした。

「『先代のときは、このやり方で問題なかった』『昔から使っている機械が使いやすい』など、当時の社内には“変わりたくないマインド”がまん延していたのです。

世の中にはすでに最新式の全自動洗濯機があるのに、洗濯板を使いながら『大変だ、大変だ』と言っているような状態でした。」

と、当時を振り返り苦笑いする小澤社長。

すぐにでも改革に取り組みたかったけれど、改革を行えば人が辞めていくことを直感しました。それなら採用を厚くしたいと思うものの、ハローワークを頼りとする採用には苦労する状況が続いたといいます。

新卒向けの合同企業説明会に出展しても、人が集まりません。学生であふれる他社を見て、言いようのない悔しさが込み上げます。働きやすく人の集まる会社にしなければ、と決意を新たにしたのでした。

そんな小澤社長が社内改革として行った主な改革は3つ。

  • 生産現場から重労働を減らす:部品の脱着や冷却用油の精製など人手が必要だった作業は、最新の加工機やロボットの導入で自動化を進めた。
  • リモート化を進める:加工プログラムを終業時にセットし、夜間は無人で機械が稼働するようにした。IoTを取り入れ機械の稼働状況を遠隔でモニタリング、加工中の見守りを不要にし、取得したデータをもとに生産状況も改善する。
  • 「正直」な社風を根付かせる:経営数字をオープンにし、利益の3割をボーナスとして支給すると宣言。30分単位だった残業時間は1分単位で支給することに。新たな社内制度は、その目的を何度も丁寧に説明し反対意見にも柔軟に対応した。
ハマリモ!製造業の採用力を高めるテレワーク
工場の一角にモニターを設置し、20台ある工作機械の稼働状況が一目瞭然。
緊急停止や加工完了のときはメールで通知が飛ぶため、持ち場を離れ他の作業ができる

残業7割減、生産効率は5~10%向上。組織が若返り自律したことが最大の成果

工場にあるホワイトボードに書かれた目標。互いに協力しながら、成長していく社風を感じられる

社内改革を行って8年ほど。どのような効果が現れたのでしょうか。

 「チームごとの稼働状況を共有したことで、機械の稼働率が5〜10%ほど上がりました。ただ稼働状況を貼りだしただけですが、みんなビリにはなりたくなくて、準備や作業手順を工夫するようになったことが要因です。健全な競争原理を意識改革につなげられました。

最大80時間あった残業時間は、7割削減。今では多い人でも20時間ほどの残業時間に収まっています。ただそれだけでは、これまで得られた残業代分の稼ぎが純減してしまうので、副業を解禁しました。本業では残業できないのに、ほかの仕事で稼げないのは酷ですから」

採用に関しては、小澤社長自らが求人票の文面を作成しています。リアルな数字、イメージしやすい仕事内容、求める人物像など、想いが伝わる文言を丁寧に選んでいるそう。試行錯誤を続けた結果、最近では若手や転職組の応募者が増えました。

組織の若返りが進み、現在の平均年齢は38.1歳。女性比率も30.5%と伸びており、リモート環境を整備してきた工場には生産に携わる女性が増えたと言います。

小澤社長による採用が進み、会社の雰囲気はどのように変化したのでしょうか。

会社のすることに賛同してくれる人が増え、仕事が非常にやりやすくなりました。以前でしたら何かやろうとするたびに、『それって、しなくちゃダメですか?』って(笑)。でも今は、『それ、やってみたいです!』と手が挙がります。

新しいロボットを導入したときも、あえて担当者を決めませんでした。ですが、担当を名乗り出る人が複数現れて、本来1人でいいところを2〜3人で回しているようです。そういう話を聞くと、だいぶ会社の雰囲気が変わったなと実感しますね」

ケーブルで接続し、タブレット端末で初期設定するだけで稼働する協働ロボットを導入。
重い材料もロボットが脱着するので、女性も操作できる

経営者に欠かせない厳しさと愛情で会社をあるべき方向へ導く

工場内はクリーンで、油やホコリの匂いがほぼしない

最後に今後の展望を聞くと、小澤さんは少し照れた様子で話してくれました。

「人がよく聞こえてしまうかもしれませんが、自分と関わるすべての人を幸せにするのが夢なんです。社員のためには、日々、楽しく仕事ができる会社を作りたい。そのためには効率化もするし、ときには変革も必要だと思っています。

ただし変革のとき、経営者は痛みも覚悟しなければいけません。方向性の違いを感じて、退職を選択する人が出てしまうからです。それでも辞められては困るからと、改革ができないのは本末転倒。だから、私が最初に取り組んだのが、人を採用できる魅力的な会社にすることだったんです

「一生勉強だ」と小澤社長は社員に話し続けています。副業を認めたのも、残業代を補填するためだけでなく、他社で仕事することで成長し、本業にも良い影響があるはずだと考えたから。

今後はリモートワークを積極的に進めていきたいと意気込む小澤社長。そうして生まれた余剰時間を使って、主担当以外の工作機械を覚えたり、セミナーなどに参加し最新の技術や情報を学んだりしてほしいと話します。

「先代の言葉で覚えているのが、『ただ機械のボタンを押すだけの人はいらない』。もし会社が倒産しても、技術があれば路頭に迷うことはないという考えです。その感覚って悪くないと思いますし、今もとても大切にしています」

リモートワークや生産の自動化はあくまでも会社が成長する手段です。大切なのは、そこから自由な時間を生みだし、新たな領域にチャレンジし続けること。それを小沢精密工業の例が教えてくれました。

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